曲阜師範大学・音楽学部での歓迎レセプションより
― 両国代表団の談話 ―
1996.6.20

 ■ 中国側挨拶(同大学音楽部長)
 学部を代表し皆様の来訪を心より歓迎します。この大学は創立四十一年目に当たりますが、音楽学部は中でもいちばん若く、一九七六年に発足した学部です。皆様は音楽に詳しい方々ですので、ご指導をお願いします。
 曲阜は孔子の故郷であり、中国の伝統文化が多く残されています。中国も日本も古い国ですから、昔からの古い音楽がたくさん残されています。皆様のお話によれば、弘法大師が長安から中国唐代の音楽をお国へ持ってゆき、今も大きな影響を持っているとのこと。音楽は国境のないものですから、言葉は通じなくとも、心は通じ合えると思います。
 例えば、中国に残る、孔子廟音楽、仏教音楽、道教音楽、これらは伝統的な音楽として両国共通のものが多いと思います。音楽は国境のない学問です
から、あらゆる国からの方々を歓迎します。これからも「声明」の研究について、いろいろと研究交流をお願いします。

 ■ 日本側挨拶(松下刊行会代表)
 今回、我々が訪中した目的から、まずお話させて頂きたいと思います。我々一行は京都の東寺真言宗に所属します。東寺は千二百年前、弘法大師が中国・長安で中国人の先生から学び、日本に伝えられた宗教です。千二百年前、弘法大師が長安で勉強した中に、「声明」という音楽がありました。弘法大師はその声明を日本に伝えられました。これは千二百年前の中国・長安の音楽です。去年、我々は弘法大師が伝えられた声明を二六枚のCDと、3冊のテキストからなる全集にまとめました。これは千二百年前のお国の音楽であります。千二百年間、我々はこれを日本で伝えてきました。日本には「里帰り」という言葉がありますが、今日、記念すべき日に、千二百年前のお国の音楽が「里帰り」します。 どうぞこの子を可愛がって頂きたいと思います。
 この全集の中に「魚山芥集」がありますが、この「魚山」は山東省東阿県の魚山です。我々は昨日そこへお参りしてきました。
 中国の文献によりますと、魏の曹操の子の曹植が、魚山に於て声明を作曲したとあります。これらの話は全て、中国側の文献に出てくるものです。本日はこの魚山を中心に、お話を進めさせていただきたいと思います。まず藤原団長より、声明全集の贈呈をさせて頂きます。

 ■ 声明全集の贈呈
中国側 ありがとうございます。千二百年前の中国の声明音楽を大事にしてくださり、私は中国人として感激でいっぱいです。ありがとうございます。

日本側 ただいま贈呈させて頂いた声明CD全集ですが、こちらの学部でも研究して頂き、研究成果をぜひお知らせ頂きたいと存じます。

中国側 今まで、大学の講義で古代音楽について学生に教えましたが、このようなオリジナルな音楽を資料に、講義できるのはこの声明CDからです。その意味でも大学としては大変ありがたく頂きます。さっそく来週から大学の講義に使わせて頂きます。学部としてもレポート、研究論文を、送りますのでご指導ください。

日本側 日本では、日本にある声明の音楽的研究はそれなりに進んでいるのですが、中国のその頃の音楽とどういった関係があるのか、この辺りのことをぜひ中国側に研究して頂きたいわけです。

中国側 中国唐代の音楽は三つの流れに分類できます。一つは宮廷音楽、この時代の音楽の最高レベルと思います。その次は宗教音楽、三番目に民間音楽です。だいたい唐代の音楽はこのように分類できます。いただいたCD全集と、唐代の三種類の音楽との比較について、レポートをまとめてみたいと思います。