− 東寺伝法学院 第十一期生 卒業式祝辞 −
平成22年3月25日  宗議会 議長 松下隆洪


 宗議会を代表し、一言お祝いの言葉を述べます。

 ここ東寺は正にお大師様が真言宗を開かれた地であり、お大師様が歩かれた足跡が今も残る場所であります。そのような風景の中で一年間、お大師様の教えと真言宗の概要を学び、ようやく今日、一人の真言宗の僧侶として、卒業を迎える事となりました。

 今日の日を待ちわびたご父兄、檀信徒の皆様さぞ安堵されたことと存じます。まずお祝いを申し上げるところであります。

 私は、授業において、既成仏教々団が置かれております現状と、今後予測される仏教々団の未来についてお話しして参りました。院生、あるいは関係者の中には、未来予測をそれほどネガティブに考慮せずともよいのではという、ご意見もあるのは承知しております。しかし私はそうは思いません。

 現在国内で進行しているのは、労働分配率の極端な差別に起因する、国民全体の貧困化であることに間違いありません。国民が貧しくなれば宗教団体も貧しくなるという現実がすでにあちこちでおきております。宗教団体の布施収入の減少が止まりません。

 数年前の卒業式におきまして、私は神奈川県内の典型的市営霊園において、その霊園の「無縁墓地化率」について二割程度の墓地が無縁か、それに近い状態になりつつあると報告しました。さらに東京郊外の数十万基の規模で広がる東京都営霊園の、三割がすでに無縁墓地だという噂が、実は、ほぼ真実であるということも再確認しました。わが国最大の人口膨張地域である、神奈川県や首都東京ですら、このような現実にあることを認識しなければなりません。

 世情はますます難しくなっていますが、嵐が大きくなればなるほど、それだけ船の舵は重要だともいえます。宗教者は時代という大波を乗り切る舵であらねばなりません。舵はいつも水中にあってマストのような華やかさはありませんが最も重要な役割をします。

 日本丸にやとわれ船長はいるらしいが、いったい船をどこへ向けようとしているのか、船員もよく知らないような状況です。乗客たちはそのうち何とかなるだろうと呑気です。どうか諸君は、自己の感性を日常的に研ぎすまさし、この国の未来について、人々に警告を与えられるような市井の宗教家の一人になっていただきたいと思います。

 本日はおめでとうございます。