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− 鎮護されざる国家への道 −
宝善院住職 松下隆洪 |
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この小論は、平成14年10月28日、総本山東寺において開催された『全真言宗青年連盟』第23回東寺大会(記念講演 石原慎太郎・都知事 漫画家・小林よしのり)の記念小冊子の巻頭論文として依頼され寄稿したものです。 |
この頃の日本、どうなってしまったのだろう、国民の多くが不安を感じている。長引く不況、金融不安、少子高齢化、高失業率、極悪犯罪の増加、外国人犯罪の激増、外務省腐敗から雪印、日本ハム食品疑惑、原発ウソまで枚挙に暇がない。最近の日本、何かがおかしい。素直な疑問は、どうしてこんなひどい国になってしまったのだろうかということだ。これには何か原因や遠因があるのだろうか。以下はそのひとつの答えだ。
昭和20年8月15日、日本人は、人類史上、最初の「敗戦形式」を、二つ体験した。
一は、核兵器によって屈伏させられたはじめての民族になったこと。もう一つは、敗戦の結果、「相続法」をかえさせられた人類史上最初の民族になったことである。戦争に負け、殺されたり、領土や武力を奪われた民族は山のようにあるが、戦勝者にとって瑣末に写る「相続法」などを意図して変えられた民族は希有である。
実は、わが国戦前の「長子相続法」は、中国文化圏の中でも異端的で、東アジアでも特異な日本独特な相続法であった事実を、ほとんどの日本人は知らされていなかった。戦後の民主教育は新憲法9条ばかりを大きく取り上げ、ひそかにセットされた「相続法」改編は、そんな事実が無かったかのようにできるだけ小さくあつかわれてきた。それはなんのためだったのか。
戦後刊行された、R・ベネディクトの『菊と刀』は、アングロサクソンが日本人をこのように見ていたのかという新鮮さと同時に、このような民生研究がじつは日米開戦のずっと前から、アメリカでは軍事予算でおこなわれていたという驚きでもあった。彼らの研究によれば、アジアのおくれた封建国家が、開国わずか40年にして、偉大なロシアを一敗地にまみらした。その最大のパワーが、実は日本人の家族形態と、家父長制にもとつく大家族制にあると喝破し、日本人をして、二度とアングロサクソンにはむかわさないためには、この家族制度を破壊すればよい。それが実は「相続法」改編の目的であったことは秘史とされた。ひるがえって今日、日本の状況はまさに「相続法」改編の目的を完遂しつつある。
猫の額ほどの土地・財産をめぐって崩壊する、兄弟・家族。親の老後の世話から、新・旧憲法を使い分けて逃亡した子供たち。病身の親は長男に押しつける明治憲法主義、その親が死んだら、突然「新憲法・財産均等分割主義」という、「二憲法並列・便宜選択国民」などが生存する「不思議国・ジパング」。
日本人は今、列島史開幕いらい、最大の危機にある。隣国は虎視眈々とチャンスをうかがっている。「鎮護される国家」への道か、「鎮護されざる国家」への道か、その選択を問われている。悲劇的なのは「相続法」改編に象徴されるように、多くの国民が真実から遠ざけられていることだ。「鎮護国家」は、今最も重要な日本人のテーマと言えよう。有意義な議論が「教王」・「護国」の道場で深まることを期待したい。 |
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