− 東寺伝法学院 第七期生 卒業式祝辞 −
平成18年3月24日  宗議会 議長 松下隆洪


 宗議会を代表し、一言お祝いの言葉を述べます。
 諸君はこの一年間、それまでの諸君の日常生活では考えられない、日常をおくられ、真言宗の僧侶として、一応その概要を学び、ようやく今日、卒業を迎えることとなりました。
 たったの一年間ですが、よく頑張りました。一人も脱落せず、ここにおるということにまず、祝意を表します。
 最近私はある調査を行いました。つい数日前ですが、お彼岸の中日、3月21日夕方、神奈川県内の典型的市営霊園において、その霊園の「無縁墓地化率」について、実態調査をしてみました。
 H市々営霊園は市の中心部から車で約40分、市北西郊外の山中にある典型的霊園です。30年前に完成し、全区画数が3800基の霊園です。そのうち1927基の墓地について調査したところ、お中日の夕方過ぎ、お花がお供えされていない、墓参りされていないと思われる墓地が、309基ありました。これは調査対象の16%に相当します。今年の彼岸は、入りが土曜日で、神奈川県では天候も良かったのですから墓参りには大変好条件だったのです。それでも16%の墓地に、墓参り跡が見られないということは、おそらくこの霊園では2割程度の墓地が無縁か、それに近い状態になりつつあるということではないでしょうか。
 かねてより東京郊外、八王子郊外に数十万基の規模で広がる東京都営霊園の、実に3割が既に無縁墓地だという噂が実は、ほぼ真実であったという事です。私たちが直面している現実とはこのような時代です。

 私は授業中毎回、これからの寺は次の3種類だと申し上げ、どちらのコースを選ぶかは諸君次第だと講義してきました。つまり(A)自滅型寺院(B)消滅型寺院(C)持続型寺院の3種類です。長年、地元の仏教会に携わってきた私の体験から言えば、A・B・Cそれぞれの比率は、三分の一程度ではないかと感じています。つまりようやく生き残るであろう(C)の持続型寺院は全寺院の三分の一しかないという事です。
 どうしたらよいのか私の講義のレジュメをもう一度自坊で振り返り、進むべき方向を決めていただきたいと思います。時代は厳しいが、だからこそ時代は宗教家を必要としているのです。
 どうか諸君は、日常生活の中での小さな満足や、安穏に精神を埋没させることなく、一人の宗教家として、その感性を日常的に研ぎすまさし、この国の未来について、人々に警告を与えられるような市井の宗教家の一人になっていただきたいと思います。

 本日はおめでとうございます。